心の蓋を開けるパラレルチャート
医療者だから一般の人よりはずっと「死」を見てきてはいるのだけど、自分の家族のこととなるとうまくできなかったりするものだ。
父を亡くして10年近くになる。
いろいろな後悔が今もある。
患者さんを見る時に父と重ね合わせてみることもあるが、そういう話は誰ともしたことがない。
感傷的で感情的なものごとだから、仕事上では蓋をしている。
それが医療者としてのひとつの切り替えスイッチなのだが・・。
NPO法人ホスピスのこころ研究所では、昨年から小森康永先生に数回お越しいただき、今回も講演前日に院内勉強会を開いていただいた。
今回のテーマは「パラレルチャート」という聞きなれないものである。
パラレルチャートとは、ナラティブ・メディスンの提唱者リタ・シャロンが医学生教育のために開発したものである。カルテに書くこととは別に医療者自身の患者に対する連想や感情を記述し、それを信頼できるグループ内で共有することで、自分たちの診療を省察し、自分たちの挫折感や悲嘆などの感情にうまく対処できるようになることが期待される、とある。※1
医師・看護師・ソーシャルワーカー・理学療法士らが事前に心に残る患者さんや出来事について振り返り、それぞれに文章を書いてきた。
それを順番に朗読し、みんなで聴きあい、小森先生や参加者がそれぞれにコメントや質問をして深めていった。
普段の仕事でも私たちは結構対話している方だと思うが、ここまで深く患者さんやご家族に対する自分の思いを書いたり話したりすることはない。
発表者は朗読するうちに感情が溢れたり、それを聴いている方も共感の涙を流したりして、会場の空気がアツくなった。
普段の仕事では見られない別の側面を発見して、その人に急に親近感が湧いたりもする。
「何を言ってもいいんだよ」という場でなければこんな風には話せない。
聴いていると、自分がかかわった患者さんの事や亡くなった父のことを想いだし、自分も書いてみたいという気持ちになる。
あの場にいてそう感じた人は多いのではないかと思う。
自分と他者の体験の間で揺れながら振り返る、というのが心地よい。
小森先生も「まず書く、ということが大事なんです。しばらくして読んでまた書く。自分の中の変化を見ることができる」とおっしゃっていた。
会が終わったあと、みんないつまでも名残惜しくしゃべったり泣いたりハグしていた。
いい光景だったな。
※1 小森康永先生の「ナラティブ・オンコロジーをやってみた」:N:ナラティヴとケア 第5号 2014年1月から一部引用しました。
今日もこのブログに来ていただきありがとうございます。
感性・・鍛えないとね。