第5回 「Healing 癒し」
ホームケアクリニック札幌では、約4年前からホームホスピスコンサートを時々開催しています。それは、在宅で過ごしている患者さんのお宅で生の演奏を聴いていただくというとても素敵なコンサートです。「アンサンブルグループ奏楽」というプロの演奏家の団体のメンバーがボランティアで演奏してくださいます。奏楽の生みの親である、札幌交響楽団オーボエ奏者の岩崎弘昌さんの提案がきっかけでした。今まで11回のコンサートが開かれました。音楽が大好きな患者さん、ご家族にとって、ご自分のお家で生の音楽を直接聴くことができる。それは素晴らしい体験です。美しい音楽を生演奏で聴くことは患者さんに心地よさや幸せな気分を提供します。患者さんの中には普段痛みが強かったのに、演奏を聴いている間はまったく痛みを訴えなかったという方もいます。まさに良い音楽は心身ともに良い影響を与えるのです。それが「癒し」だと思います。
旧約聖書の中にダビデが霊に取りつかれて苦しみの中にあったサウル王の傍らで立琴を弾いたという記述があります。
「神の霊がサウルに臨むたびに、ダビデは立琴を手に取って、ひき、サウルは元気を回復して、良くなり、わざわいの霊は彼から離れた。」(サムエル記第一16章23節)このように、良い音楽は癒しの効果があることは今から3000年も前から人々の間で知られていたのです。
「癒し」を辞書で引いてみると、「肉体の疲れ、精神の悩み、苦しみを何かに頼って解消したりやわらげたりすること」とあります。これはまさにホスピス緩和ケアそのものです。ホスピス緩和ケアの本質は「癒し」を提供することなのです。
病気の治療は病気との戦いですから、患者さん自身も時に傷つき、かえって苦しみが増えることがあります。それは手術や抗がん剤による治療を考えるとよく分かります。患者さんは病気を良くしたり治したりするためには副作用や時には合併症でさえも我慢をしなければならないのです。しかし、終末期や慢性期ですでに多くの戦いをしてきた患者さんが最後まで苦しみを伴う戦いをしなければならないのでしょうか。
「癒し」は良いことはあっても悪いことはありません。「癒し」が提供されると時に病気も回復します。私たちの病院はそのような癒しをいつも提供することを目指しています。
癒しを提供する手段は実に様々です。予定している新病院の周囲は緑豊かな環境があります。草花は患者さんの目を癒します。そして、鳥のさえずりは耳を癒します。新病院では音楽をさらに身近に聴くことができるように工夫したいと思います目に優しい絵画をいたるところに配置したいと思います。
最近話題になっているセラピーも取り入れてまいります。アロマセラピー、リフレクソロジーなども大きな癒しの効果があると言われています。
しかし最も大切なのは職員自身が癒しを提供することを心がけることだと思います。前回の「おもてなし」で大切だとお話ししたさりげない「会釈」、「声かけ」、「笑顔」はいつも患者さんにさりげない癒しを提供するでしょう。そして、もう一つ、さりげない「タッチング(体に触れること)」を心がけたいと思います。看護師が患者さんに「良くなってほしい。」「安楽に過ごしてほしい」と心から願いながら、さりげなく患者さんのお体に触れることができれば、患者さんはそのぬくもりを通して「癒し」を感じることができるでしょう。私たちの病院はあらゆる方法を通して患者さん、ご家族に癒しを提供したいと願っています。
理事長 前野 宏