第16回「がんの痛みのケア~看護師の視点から」
がんの痛みを抱えている患者さんを看護師としてどのようにサポートしているかご紹介したいと思います。
痛みは体験しているその人自身にしかわからない主観的な感覚で、特にがんを抱えている患者さんの痛みはとても複雑です。そのため私達は患者さんの痛みを客観的に理解できるように、痛みが患者さんに与えている影響を正しく把握する努力を行います。
例えば、
①痛みの強さ:痛みを数字にして表現してもらうことがあります。例えば5段階のうち今はどの程度の痛みか確認します。数字で表現出来ない場合は無理に尋ねることはしません。表情や日常生活動作の変化、心理面の変化などをみながら痛みの程度や変化を判断します。
②日常生活への影響:痛みが睡眠や食事、排泄、入浴といった生活行動を妨げていないか、日常生活動作のお手伝いをしながら把握します。
③鎮痛薬の効果:様々な種類の鎮痛剤の知識を基にして鎮痛薬の効果を判定し、薬剤師と協力ながら患者さんが安心し適切に薬を使用できるようにアドバイスを行います。
入院中、日々の生活を一番近くでサポートできる医療職は看護師ですから、患者さんのわずかな変化にも気がつくことが出来ます。その少しの変化も見逃さないように痛みを初めとした苦痛症状に目を向け、症状緩和に繋げるのが看護師の大きな役割です。そして苦痛症状が出来る限り最小限となるような生活動作のお手伝いをするのも大切な役割です。
初めに話したように、痛みは主観的で非常に複雑です。その理由として、痛みはがんによる身体的な原因だけでなく、精神面が大きく影響するからです。病気の不安や、仕事、お金などの社会的な問題を抱えていると、それ自体が痛みの原因となったり、強く感じさせる因子となります。ですから、単なる薬剤だけでは痛みなどの苦痛症状を和らげることは出来ません。心理的、精神的にも「穏やかな状態」でいることがなによりも痛みの緩和になります。
では「穏やかな状態」とはどのような状態のことを言うのでしょうか。それは、病気を抱えていても普段の自分らしくいられること、自分らしい心持ちで暮らせることではないでしょうか。痛みがあれば、それだけに神経が集中し、他の事をする余裕はなく、自分らしく過ごすこともままならなくなります。「痛みがある→穏やかでない→自分らしくいられない→痛みが増す」この負のスパイラルを断ち切り、患者さんがご自分らしさと普段の笑顔を取り戻せるように、身体と心を共に援助することが、私達看護師の目指していることです。
(ホスピス病棟師長 須藤)