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日本医療機能評価機構認定医療機関

WEBセミナーホスピスのこころ

第12回「緩和ケアと薬剤」

〇緩和ケアと薬剤
緩和ケアでは、痛みや咳、息苦しさ、だるさ、食欲低下などの『身体のつらさ』を和らげる薬と、心配な事や不安な気持ち、イライラなど『気持ちのつらさ』を和らげる薬が使われます。これらの薬を上手に取り入れ、身体と気持ち(こころ)の両方の面から、できる限りつらい症状を感じることなく日常を過ごせるよう、薬の調節をしていきます。
モルヒネをはじめとする「医療用麻薬」は、痛みや咳、息苦しさなどの症状を和らげる働きがあるため、『身体のつらさ』に対して使われます。数年前に比べ現在では、モルヒネの他にオキシコドンやフェンタニルなど使用できる薬の種類も増えたことで、病態や症状に合わせて薬を使いわけることができるようになりました。さらに、飲み薬をはじめ注射や貼り薬、水薬、坐薬など、剤形も豊富に揃っており、様々な投与経路で薬を使うことが可能になっています。これら医療用麻薬は、その名のとおり“医療用”として国が定める厳しい審査に合格し、効果と安全性が認められた麻薬を指します。適正に使えば薬物依存や中毒、寿命を縮めることなく症状を和らげてくれる、緩和ケアでは欠かすことのできない薬なのです。

次に、緩和ケアにおける薬物療法(薬を用いて症状緩和を行うこと)について述べてみたいと思います。緩和ケアにおける薬物療法で大切なことは、『患者さんに納得して薬を使ってもらうこと』、『多職種が集まり皆で薬物療法を行う』この2つが挙げられると考えています。
① 患者さんに納得して薬を使ってもらうこと
私たちは無理にお薬を勧めることはしません。つらい症状を和らげるための緩和ケアです、お薬を使うこと自体が苦痛になるようでは薬物療法はうまくいきません。もちろん医学的判断に基づき、薬を使えば症状緩和が得られると判断した場合は、こちらから薬の導入を提案することはあります。患者さん、時にはご家族の方にも十分な説明を行い、納得が得られたうえでお薬を使います。そして患者さんやご家族の方も一緒になって効果や副作用を確認しながら薬の調整をしていくことが、症状緩和を上手に行ううえでとても大切な事だと考えています。
② 多職種が集まり皆で薬物療法を行う
私たちは目の前の症状をただ和らげるために薬を使うのではなく、その薬を使う目的や必要性、また副作用が起こった場合に考えられるデメリットなどを十分検討したうえで薬を使います。点滴一本使う時も同じです。
このような薬物療法を行うためには、医師だけではなく他の職種(看護師やソーシャルワーカー、リハビリスタッフ、薬剤師など)も集まり、様々な視点で患者さんのことを考え、意見を出し合うことが必要になるのです。
例えば、患者さんが「痛み」を訴えられたとき、「とりあえず痛みを和らげる」目的でお薬を使うのではなく、その患者さんが普段どんな生活を送っていらっしゃるのか?生活しているなかで「痛み」によって妨げられている事はどんなことだろうか?痛みが和らいだら患者さんがしたかった事がどこまでできるのか?また、家族や友人とどんな時間を過ごせるようになるのか?・・・このように私たちは「痛み」の訴えひとつに対しても、薬の選択から投薬まで具体的なことをスタッフ皆で十分検討したうえで、必要最低限の薬を必要な期間だけ使い、症状緩和を行うよう心がけています。
これが普段わたしたちが緩和ケア病棟で提供している薬物療法なのです。

私たち薬剤師も質の高い緩和ケアが提供できるよう、薬の効果や副作用のチェックはもちろん、薬を飲むことが苦痛になっていないか、薬の飲み合わせに問題はないか、このような視点で薬のチェックを行い、患者さんが安心してお薬を使っていただけるよう緩和ケアに関わらせていただいています。

薬剤師 冲中厚介