https://sapporominami.com/nurse/

文字の大きさ変更

サイトマップ
0118830602

看護部からのお知らせ

親指同士の会話

患者さんやご家族の中には「誰かに気持ちを聴いてもらいたい」と思っておられる方が、おそらくたくさんいらっしゃいます。
けれども医療者では忙しくて聴いてもらうのは申し訳ないとか、医療者にはわかってもらえないだろうと、あきらめてしまっていることがあると思います。
こういうとき、病気やそれ以外のつらさを話せる人がいたらいいですよね。
誰かに聞いてもらうことで心が楽になることはよくありますから。

確かめたことはないけれど、おそらくほとんどの方が大なり小なりそういう気持ちを持っておられるのではないかなと想像しています。
私自身、家族が病気のときに、病気そのものの心配ももちろんあるのですが、自分の心細い気持ちを誰かに聴いてもらいたいと感じました。
そう感じる一方で「こんなこと話しても相手の人は聴くのが楽しくないだろうな」と思って呑み込んでしまう、そうも思いました。
「みんな忙しいのだから、こんな愚痴みたいなこと聞きたくないだろう」。最初は小さな感情でも、徐々に溜まってくると、だんだん苦しくなるものです。

そこで看護師がじっくり腰を据えてお話を聴けたらいいのですが、現実はなかなか難しい。
そんな時は傾聴ボランティアさんの出番です。
患者さんの気持ちをキャッチして、傾聴ボランティアの方をつなげるのは看護師の役割です。
いくら誰かに聴いてもらいたいと思っていたとしても、突然知らない人がやってきて「さあどうぞ、なんでもお話してください」と言われても面食らってしまうでしょうから。

「この方は傾聴ボランティアの〇〇さんと言って、とても聴き上手な方なんです。お話した内容はもちろん守秘義務がありますのでけして他の人に話すことはありません。よかったら△△(患者)さんのお話を聴かせてもらえませんか?」などと紹介し、少し世間話などしてから聴くことの承諾を得るようにしています。

この傾聴ボランティアさん、当院には数名いらっしゃって、病棟それぞれに担当が決まっています。
先日そのうちの3人の方と「傾聴ワークショップ」を開き、それぞれが傾聴の際に気をつけていることや、患者さんから教わったことなどをシェアしあう場を設けました。

その中の話が、きらきら輝く宝石のような言葉だったので、再現してみます。

「世間話から始まりますが、ときに沈黙が続くときがあります。そんな時は薄れかけた遠い記憶を思い起こしている場合があるので、邪魔をしないようにじっくりとそこで待ち、たたずむようにしています」

「病室の入り口にカーテンがかかっていて、看護師さんの足が行ったり来たりしている。うらやましいなあ、動きたいなあ、私にもあんな風に元気に動いていたときがあったのに、とおっしゃる方がいました。無力感や孤独感をわかってもらいたいという気持ちが強く伝わってきました」

「認知症の方でベッドの柵をぎゅっと握りしめている方がいました。その手に自分の手を重ねてリズムを取るようにしていたら、いつのまにかぎゅっと握りしめた手が緩んで、その方の親指が柵から離れて私の親指に合わせてくれて、親指同士で会話をしたんです」

「たとえ一度限りの出会いでも、その方に自分が受け入れてもらえたときに、魂が触れ合う瞬間がある」

「病気を抱えながら生きる時間の中で、傾聴ボランティアの関わりはほんのちょっぴりの時間。でも、今日はちょっと笑ったな、とか聴いてもらって楽になったな、と思ってもらえたらそれでいい」

今日もこのブログに来ていただきありがとうございます。
ほんとに、人として学ぶことが多い。